ジム・ロジャーズ: 「冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行 日経ビジネス人文庫」

投稿: 2006年3月8日

旅の途中で見るものというのは、見る人の視点によって、面白くもなるし、全く無意味なものにもなる。この本は、投資家として名高いジム・ロジャーズがバイクで世界一周旅行をした記録である。僕が投資というものに興味を持って、実際に行動を起こしたのはそれほど前の話ではない。投資に興味を持つまで、このジム・ロジャーズという人のことは聞いたこともなかったのだが、投資関係のことをいろいろと調べていくうちに、どうやらその世界では大変な有名人らしいことが分かってきた。そんなわけで、この人の本を一度くらいは読んでみたいと思っていたところ、点字データを入手できたので早速読んでみた。

前述の通り、この本は基本的にはジム・ロジャーズの旅行記である。しかし、あちこちに彼の投資家としてのものの見方が記されている。そして、いろいろな国や地域の歴史的な背景なども織り交ぜて経済の現状を分析し、彼の投資対象となり得るのかどうかというようなことも記されている。単に一般的な旅行記が好きなだけの人にはあまり面白くない本なのかもしれないが、僕には大変面白い本だった。経済の大原則と言えるような考え方があれこれと書かれているように思う。投資に興味がある人だけでなく、経済政策とか国債協力とかに興味がある人にも参考になることは多いのではないだろうか。折に触れて読み返したくなりそうな1冊だった。

最近よく考えていて、またこのブログでもしばしば書いていることとも関係するのだが、彼がこの本の中で紹介している投資判断というのは、彼が持つ知識と実際に自分の目で見て、耳で聞いた情報に基づいている。第三者が伝えてきた情報を鵜呑みにしているのとは話が違う。とは言え、彼の場合は第三者から聞いた情報だけでもしっかりとした投資判断ができるだろうし、まず間違いなくその判断に基づく投資は、僕が現地に赴いて集めた情報に基づいて行う投資よりもパフォーマンスが良いだろう。同じ情報を与えられても、分析能力やそれを正しく解釈するために利用できる知識の量が違いすぎるのだ。彼は努力の人であるようだし、また学ぶことが好きだとも言っているから当然のことなのだろう。僕が彼に近づくためにはかなりの勉強が必要そうだが、シナリオをしっかりと考えた投資ということを意識することくらいは、どうにかできそうである。 (結果として正しいシナリオを考えられるかどうかはもちろん別の話だが。)

ところで、この本、邦訳の質が高いなと感じさせられる。普段直訳の多い技術系の文書や記事を読むことが多いためにそう感じるだけなのかもしれないが、日本語として不自然な印象を受ける部分がほとんどない。ただ、訳者の後書きによれば、一部翻訳・出版に当たって割愛されている部分があるらしいことが大変残念である。ぜひ原書を読んでみたいという気にさせられた。

印象に残った一言:

投資のこつは、いかにして金を失わないかということにあるのだ。

当たり前の話だが、金を増やすことだけを考えると、しなくてもいい大負けをして金を減らすことになる、というのは、スケールは小さいが僕も経験済みである。