やれることからやるのも重要だけど…
NIKKEI NETに、「三井住友銀、音声で伝える商品パンフレット」という記事があった。商品のパンフレットに、 SPコードをつけて、 SPコード・リーダーを持っている視覚障害者や高齢者の便宜を図る、ということらしい。でも……。
そもそも SPコードというのは、ほとんど普及していないように思う。実は役所などが発行する文書ではそれなりに使われているらしいのだが、僕自身は未だにお目にかかったことがない。あるいは、実際には SPコードがついているのに、気づいていないだけなのかもしれない。また、リーダーの普及もそれほどではないだろう。少なくとも僕の知り合いでリーダーを持っているという人は知らない。最も、このリーダーは、いわゆる (僕みたいな (笑)) 重度の視覚障害者にはほぼ無料で給付されるのだが、 SPコードが普及しているとは思えない現状において、必要性を感じたことがないので、給付を申請しようと思ったことすらない。また、もし自己負担で買う場合は、それなりの価格なので、とても買う気にはなれないだろう。僕だったら、同じ額を使うなら、時々友人にごちそうして、ついでに書類を読んでもらう、とかするだろう。
さて、こんなことを書いていると、「普及もしていない SPコードを導入しても意味がない」というようなことを言いたいのではないかという誤解を受けそうだが、決してそんなことはない。普及もしていないものを導入しただけで満足してくれるな、という気持ちはあるが、その一方で、こうやって導入する企業が増えることで普及につながる側面もあるのだろうから、それはそれでいいとしよう。 (もっとも僕は SPコードが普及させるに値する仕組みなのかどうかは、使ったことすらないのでさっぱり分からない。) それはそれとして、バリアフリーとかユニバーサル・デザインとかいうことを言うならば、銀行に取り組んで欲しいことはまだまだいっぱいある。三井住友は (最近は) 使っていないので、三井住友にも当てはまることかどうかは知らないが、多くの銀行で一般的に見られる問題なので、少し書いておこう。
まず挙げられるのが、書類作成に関するものだ。たとえば僕が一人で銀行に行って、窓口で口座を作りたいと告げる。すると、当然のように口座開設申し込み要旨を出してきて、「これに記入してください」と言う。そこで、「眼が見えないので代筆をお願いします」と言う。すると、「代筆はできません」とくる。「どうしてできないんですか?」と尋ねると、「行員による不正防止などの観点でできないことになっています」と答える。「では僕はどうすれば口座を作れるんですか?」と尋ねる。「ご家族の方に代筆していただいてください」と言う。「一人暮らしなんですが」もしくは「家族も眼が見えないんですが」と言うと、「ではご親戚の方とかご友人とかにお願いできませんか?」となる。「なるほど、その変の友人よりもここの銀行員は信用できないということなんですね。そんな銀行員に僕の個人情報や財産を握られたくないですから、こんな銀行には口座は開きません。では失礼します。」となる。まあ最後の一言を出すまでには、現場の責任者が出てきたり、いろいろな嫌みったらしいことを言ってみたりしてかなりの時間がかかる。場合によっては、うまいこと話が進んで、現場の機転でそうならないこともある。しかし、銀行口座とかクレジットカードとかの申し込みを窓口でする場合は、必ずちょっとした覚悟をして、精神的にも時間的にも余裕がある時にいかないと話にならない。
とはいうものの、最近はインターネット上で手続きが済むようになっている銀行なども少なくない。これはこれでありがたい。あの押し問答をしなくてもいいのは、精神的にも時間的にも助かる。しかし、業者によってはこのインターネットのサイトのアクセシビリティが低くて話にならない。せっかくの高金利のサービスも、これではどうにもならない。申し込みもままならないのだから、申し込んだ後の利用も大変であることは想像に難くない。だから、申し込みの段階で使いにくいと感じる業者には、いくら高金利でも見向きもしないことにしている。金融業に限ったことではないが、結局サイトの使いやすさには、その業者の顧客に対する姿勢が現れると思うのだ。 Webの制作会社もそういう意識で作って欲しいものである。
そして、これはもう言うまでもないくらい、長年にわたって存在する問題だが、ほとんどの銀行のほとんどの CD/ATMは、眼が見えなければ使い物にならない。その辺にいる銀行員に頼めば代わりに操作してくれるが、なぜ僕の暗証番号をかれらに教えなければならないのか分からない。もし銀行員が書類の代筆もできないほど信用できない人たちなら、暗証番号など教えられるわけがないではないか。ということで、どこに行っても必ず使える CD/ATMがある郵貯と提携している銀行に口座を作ることになるのだ。
ということで、三井住友には、 SPコード付きのパンフレットで獲得した視覚障害を持つ顧客に対して、ちゃんと書類の代筆をしたり、 ATMを使えるようにしたりしていただきたいものである。