Cool & Sweet
高校時代に留学した時、日本の英語の授業では教わらない表現や言葉をいろいろと学んだ。その中の一つが、 cool という言葉だ。日本語でクールと言えば、「冷静」とか、「さめている」とかいう風な意味合いだと思うが、 (アメリカ) 英語では必ずしもそうではなく、「かっこいい」とか「すごい」とかいうような意味合いで使われることがある。
インターンとしてアメリカの盲学校にいた時、一人の高校生と話していた時のことだが、彼が熱く語るミュージシャンか何かの話を聞いて、 ``That's cool'' と言ったら、横で聞いていた先生に、「そうか、 Maxは coolの世代か」などと言われた。どういう意味だかよく分からなかったので聞いてみると、彼曰く、 ``cool''と言うのは一昔前にはやった表現で、今の若者にはあまり使われない、と言うのだ。では今の若者が使う表現は何かと尋ねたら、 ``sweet'' かな、という答えが返ってきた。
確かに高校生たちの会話を聞いていると、 ``sweet'' というのはよく出てくる。なにかすばらしい話を聞いた時などに、感嘆の表現として ``sweet!!'' と叫んでいたりするのも耳にする。一方 ``cool'' の方はあまり耳にしない。耳にするのは、僕の同年代以上の大人の間で交わされるカジュアルな会話に目立つ程度である。
そんな話を、僕よりも年上で日頃小学生と接することの多い友人にしたら、彼女曰く、数年前は ``tight'' というのがはやっていたこともあって、今でも ``tight'' を使う若者も少なくないのだそうだ。確かに気をつけて聞いているとそれも耳にする。彼女によれば、 ``cool''の時代は長かったが、その後、数年に一度程度で使われる言葉が変わってきているのだそうだ。もちろん地域的な要素も大きいだろうから、別の州に行けば事情は全然違うかもしれないのだが、やはりテレビなどの影響もあって、最近は昔よりは地域差が少なくなってきているということもあるそうだ。
なぜこんなことを急に書いているかと言うと、最近読んだ AV Watch の記事に、「チョコレートバーをイメージしている。“テレビを外で見る”というのがいかに甘い体験かを味わって欲しい」というコメントが紹介されていたのだが、この「甘い」という訳に違和感を感じて、この ``cool''と ``sweet''の話を思い出したからだ。おそらくこのコメントは、 ``sweet experience'' を直訳したものだと思うのだが、だとすると、上に書いたような理由で、この ``sweet'' には「甘い」以上のニュアンスがあるのではないかと感じたのだ。意訳するなら「すばらしい体験」となるのだろうが、この記事の場合、前後の文脈からして「甘い」という要素を省くわけにはいかないので、翻訳するのは大変難しいとは思う。でもそこが翻訳者の腕の見せ所だろう。 (でもって、適切な訳ができない僕はやはりプロの翻訳者にはなれないな、と思うのでした。)
ということで、英語も変化している。ちなみに、 ``sweet''がよく使われている、という話を聞いたのはもう 5年くらい前の話なので、今はまた別の言葉がはやっていて、 sweet世代は年寄り扱いされているかもしれない。 (僕の駄文に付き合ってくれている友人諸氏の中には、僕よりも英語が堪能な人も多いので、「何を今更」という感じの話だとは思うが。)