テキサス・インターン物語 (4) --- 中高生の情報処理教育 ---
情報処理の授業の見学の 2週目は、中学生および主に職業訓練を受けている高校生を担当する先生の教室だった。また、その次の週は、主にその他の高校生を担当する先生の教室だった。この二つの教室は、いずれも PCが 5台程度設置されていて、複数の生徒を対象とした授業が行えるようになっていた。また、指導内容は、小学生の場合とは異なり、 PCを使うための技術を習得させることがより大きな目的となっているようだった。
中学生の場合、クラスの担任の先生がいて、その先生がほとんどの授業に関わっていた。感覚的には日本の小学校に近いのだが、多くの場合、授業毎に専門の先生が担任の先生とともに授業を行っていたようなので、その点は少々異なるといえるだろう。情報処理の時間も、生徒たちは担任の先生と一緒に僕が見学していた教室にやってきて、おのおの PCを使って学習していた。内容はその時々で異なっていたが、基本的な考え方は、 PCを使って何らかの課題に取り組ませ、それを通して PCの操作などを習得させるというものだった。ただ、多くの生徒がまだタイピングにも不慣れな状態だったため、作文など、なるべく書く量が多くなるような課題がよく与えられていたようだ。
一方高校生の場合は、授業毎に異なる先生が担当し、また各自で履修する授業も異なるので、中学生のように全員に対して同じ内容の授業をすることはできない。そこで、 3週目に見学した教室では、情報処理の時間は基本的に各自の課題に (PCを使って) 取り組む時間と位置づけ、各自が作業を進めていく上で直面する問題を、先生が手助けして解決することで、 PCの利用能力を伸ばすようにしていた。
職業訓練を受けている高校生に関しても、取り組む課題の性質が異なっているものの、基本的にはそうでない高校生と同様だった。彼らの場合は、職業体験の中で必要となったメールのやり取りを行ったり、関連する調べ事をしたり、実務に直結する課題に取り組むことが多かったようである。
3週間にわたっていろいろな生徒に対する指導を見学して感じたことは、まず何より、情報処理教育の位置づけが、僕がそれまで考えていたものとは大きく異なっていたということだ。僕自身は、高校生の頃にはまだ情報処理教育なるものがなかったので、自分の経験と比較することはできない。また、日本の小中高校における情報処理教育についても大して知らないので、日本との比較もできない。しかし、それまで聞いた話などから抱いていた情報処理教育の印象は、コンピュータについて学ぶことが主な目的であり、コンピュータを道具として使うことを通して利用するための技術を習得する、というのとは随分異なったものだった。
もう一つ考えさせられたことは、生徒それぞれにとって有効な指導方法や指導内容を決定することの難しさだ。このように何かを達成するためにコンピュータを利用するという方法をとっているために、生徒それぞれでニーズが異なり、さらに個々の能力の差なども考慮して、細やかな配慮をして授業を進める必要があり、これは簡単なことではない。視覚障害の状況、発症時期、点字の習得度合いなどの要素に加えて、程度の異なる学習障害を持つ生徒もそれなりの数いたことで、指導内容や指導方法は自然と多様化することになる。担当する教員は、そういった個人の差を見極めつつ、授業を計画し、進めていかなければならないのである。
こうして多様な生徒を指導する先生も大変だが、見学するのも楽な話ではなかった。というのは、このような状況なので、まずは生徒一人一人がおかれている状況や学習能力について、ある程度正確な理解をしなければならない。そうでないと、指導方法や指導内容が何を意味するのかが分からないのだ。したがって、 1度や2度見学しただけでは、何も本質的なことは分からないことがほとんどだった。
そんなわけで、この 3週間の見学の後の予定が全く決まっていなかったことをいいことに、僕はこの二つの教室に居座って、より詳しくいろいろな生徒たちの様子を観察することにしたのだった。そしてこの頃には、僕を受け入れてくれる別の研究期間なりなんなりを探す当初の計画について、ほとんど忘れてしまっていた。
(第5話へ続く)