提灯
先日の記事で、富士通製ドコモ端末らくらくホンIIIに東芝製ソフトバンク端末821Tが酷似しているため、ドコモと富士通が821Tの販売差し止めなどの仮処分命令を求める申し立てを行った、という話について紹介した。その記事でも書いたが、僕は最近発売されたらくらくホン プレミアムにはそれなりに興味があるので、関連情報を何となく探していたのだが、その中で、ユニバーサロンに掲載された同機に関するインタビューを見つけた。とりあえず、子の機種でもこれまで通りに音声読み上げの機能がある、という僕が一番知りたかったことが分かったので、それはそれで良いのだが、このインタビュー記事を最後まで読んで、僕はすっかりあきれ果ててしまった。
毎日新聞「ユニバーサロン」 - 《開発者に聞く》ドコモ、究極のユニバーサルケータイ--エグゼクティブのためのほぼ全部入りらくらくホンプレミアム
廣澤 デザインがほとんど同じですからね。一番困るのはらくらくホンと勘違いされることです。店員が説明の中でソフトバンクのらくらくホンみたいな言い方をするかもしれません。すると、音声読み上げがあると思って821Tを購入した視覚障害の方が当惑するかもしれません。
記事によれば、これはNTTドコモプロダクト&サービス本部プロダクト部第三商品企画担当課長の廣澤克彦氏の発言だ。が、この人は本機でそんなことが起きると思っているのだろうか。ちょっといくつかのケースを考えてみよう。
たとえば、携帯電話を欲しいという視覚障害者が量販店などに行って「らくらくホンが欲しいんですけど」と言えば、普通はドコモの担当者が出てきてらくらくホンについて説明してくれるだろう。そうではなくて、ソフトバンクの担当者が出てきて「はい、こちらがソフトバンクのらくらくホンでございます」とか何とか言って821Tについて説明を始めるようなことがあるだろうか。仮にそういうことがあっても、携帯電話を購入する場合、自分が欲しい機能が搭載されているかどうかを確認してから購入するのが当たり前だ。特に視覚障害者の場合、音声読み上げが搭載されているかどうかは非常に重要なので、その点を納得せずに買うということは考えづらいのではないか。それともこの人は、視覚障害者はそういう判断ができない人種だとでも思っておられるのだろうか。
別の例も考えてみよう。量販店ではなく、ソフトバンクのショップに携帯電話を求めてやってきた場合だ。しかし、まずそもそもらくらくホンが欲しい人がソフトバンクのショップにやってくるとは思えない。仮にそういう人が来たとしても、結局詳しく機能について説明を受ければ821Tが自分の求めているものではないことが分かるのではないだろうか。
本当にユーザのため、業界のためを思うのであれば、ドコモや富士通はこんな了見の狭いことではいかん、というのは冒頭でリンクした以前の記事で書いたとおりだ。さらに言うならば、本当にユーザのことを考えているのならば、ソフトバンクに対して販売に当たって誤解が生じないようにするように求める、というのがやるべきことだったのではないだろうか。しかし、ドコモの了見が狭いことはもう仕方がないことだという気もするので、この発言も腹立たしくはあるものの、さして気にはならなかった。それよりなによりあきれてしまったのが、このインタビューを行い、記事を執筆した岩下恭士氏の発言だ。上に引用したドコモ廣澤氏の発言に対する発言はこうだ。
毎日新聞「ユニバーサロン」 - 《開発者に聞く》ドコモ、究極のユニバーサルケータイ--エグゼクティブのためのほぼ全部入りらくらくホンプレミアム
岩下 あり得ますね。
そしてさらに続くドコモの主張に対してこんなことも言っている。
毎日新聞「ユニバーサロン」 - 《開発者に聞く》ドコモ、究極のユニバーサルケータイ--エグゼクティブのためのほぼ全部入りらくらくホンプレミアム
岩下 よく分かります。シニア向けでもかっこいいもの、簡単でも高機能というコンセプトは、ユーザーの声をしっかり受け止めたらくらくホンが切り開いたものですからね。単なるさるまねは止めてくれと言いたくもなりますよね(笑)。ユーザーの選択肢が増えるという意味では、よい面もあると思いますけど?
[略]
岩下 821Tはあまりにも似すぎているということですね。確かにケータイにさほど関心のない人の中には、ドコモかソフトバンクかなんて気にしていない人もいますから。らくらくホンだと思って、ドコモショップに問い合わせがくる可能性があります。しかし、逆もありでしょう。そういう意味では、明確なコンセプトのない(?)ソフトバンクは自分の首を絞めるようなことをしてしまったのかもしれません。
この岩下氏の発言でインタビュー記事は終わっている。
岩下さん、係争中の件について一方の当事者の言うことだけを伝えるばかりか、それに貴方が同調してどうするのですか! それともソフトバンクと東芝に取材した結果分かった事実に基づいて「さるまね」だとか」明確なコンセプトがない」だとか言ってるのですか!? もしそうなら、その取材に基づいた情報を記事にしていただきたい。もしそうでないなら、こんなドコモの提灯記事を書いたことを恥ずかしく思うべきでしょう。仮にも新聞社の社員なのだから、もっとジャーナリスト意識を持って記事を書いていただきたい、そう申し上げたい。
ところで、この記事を読んでどうにも腑に落ちないことがある。視覚障害者が本当にこの2機種を混同することがあるのか、ということだ。ドコモによれば、デザインが酷似しているからだ、というのだが、視覚障害者が見た目で勘違いすることはないのではないかという気がするのだ。なんと言っても僕たちは携帯電話を「見て選ぶ」ということは基本的にないのだから。