ネット販売がなくても困らないために
このブログを読んでくださっている皆さんはそろそろ飽きてきたかもしれないが、三度医薬品ネット販売規制問題。
既存事業者はあくまでも対面販売にこだわることでネットを排除するのだが、それが健常者のことしか想定していないというのは、医療に関わる者としてあまりにもバカ過ぎないか?
これを読むまで僕は薬局の人たちを、薬剤師も含めて商売人として見ていたような気がする。が、確かに彼らは明らかに医療関係者であるから、僕が思っているよりも不快考えを持っているかもしれない。先日の記事では、厚労省が公開している議事録を参照して、日本チェーンドラッグストア協会副会長の小田兵馬氏の「(障害など) 本人の事情により医薬品が買えない場合も、我々 (ドラッグストア) の業界で協力し合うことで対応できる」という発言を紹介した。ということで、思慮ある医療関係者にぜひ考えていただきたい、具体的な「業界での協力」について考えてみた。ここまでやってくれれば、ネット販売がなくても僕はさほど困らないかもしれない。
視覚障害者が困らないために、というより僕が困らないために
僕がなぜ対面販売だけでは困るのかということについては、上でリンクした先日の記事に書いた通りだ。簡単にまとめるとこうだ。
- 購入時にパッケージや添付文書の内容を自分で確認できないため、十分な検討が困難
- 自分で買った薬が何だったのか、後で自分で確実に調べるすべがない
- 結果として用法用量や副作用などについての正確な情報を得られない
これらを解決できる、販売店やその業界ができることとは何かと考えてみたのだが、とりあえずパッケージや添付文書の内容を点字にしたもの、録音したもの、それにテキストデータ化したものを準備して、購入時にその製品に関する情報をこれらのいずれかの形式 (購入者が求める形式) で閲覧させ、渡してくれれば、だいたい問題は解決するような気もする。しかし、だいたいこういう形式の情報は、製品と一緒に保管しておくには不便な外形なので、それをなくしてしまったり、あるいはどれがどの製品のものなのかが分からなくなってしまったりすることも十分予想できるので、おそらく不十分だろう。
ではそれを補うために、加えて何ができるのか。購入後も自分の購入履歴や購入した製品に関する詳細情報をオンラインで確認できる仕組みを提供してくれれば、完璧ではないとは思うが、ネット販売を利用している現状のレベルにはだいたい達するだろう。ただ、ネット販売であればどこにいても一つの店舗を使い続けることができるため、自分の購入情報の管理は容易だが、対面の場合その時々で違う店舗を利用しなければならない可能性が出てくる。しかし、どれをどこで買ったのか、などということはしばらく経てば忘れてしまいそうだから、店舗横断的に購入履歴を保持できるような仕組みでなければあまり意味はないかもしれない。そういった仕組みをプライバシーにも配慮して構築するのは簡単ではないとは思うのだが、業界で協力し合うことで実現することは可能だろう。
聴覚障害の場合
ネット販売規制で不便になるのは何も視覚障害者だけではない。先日も少し紹介したように下肢障害がある人もそうだし、冒頭で参照した小寺さんのブログにもあるように聴覚障害者だってそうだ。 (そしてもちろん住んでいる場所や生活環境によって健常者だって不便になるし、ここで言及していない種類の障害がある人だって影響を受けるだろう。) いろいろなケースがあるとは思うが、聴覚障害者と下肢障害者にとって不便にならないようにするために、販売店業界ができることについて考えてみよう。ただし、僕は聴覚障害についても下肢障害についても、友人が数人いる程度なので、あまり正しくない推測になってしまう可能性がが大いにあることを理解して読んでいただきたい。
まず、聴覚障害の場合だが、この場合はいかに正しく情報を伝えられるかという点が重要になるだろう。聴覚障害と一言で言っても、個々の受けてきた教育や生活環境によって、一番効率的、かつ確実にコミュニケーションをとることのできる手段が違っている。具体的には、手話を好む人、筆談を好む人、口話法 (自分の発声と読唇を使う方法) を好む人などがいる。ネット販売の場合は全てが文字を中心としたコミュニケーションになるわけだが、仮に文字コミュニケーションがそれほど得意でない人であっても、店頭とは異なり、十分に時間をかけて、自分が理解できるまでしっかりと情報を読むことができる点は大きなメリットだろう。したがって、店頭での対面販売をネット販売と同等にするためには、
- 聴覚障害者の様々なコミュニケーション手段に対応することのできる要員の配置
- 時間をかけて情報を理解する必要がある場合にも気兼ねしなくていいような環境の実現
ということが必要になるだろう。前者が重要なことは言うまでもない。後者については、聴覚障害者だけでなく、情報をじっくり聞いて理解する必要がある僕たち視覚障害者にも有益だし、さらに言えばじっくりと薬剤師と相談して不安を解消した上で薬を買いたい健常者にも有益だろう。現状では、ある程度以上の規模の店舗では、店員や薬剤師は忙しそうで、また薬を買おうと待っている客もそれなりにいることが多いので、気兼ねせずにじっくり薬剤師に質問するようなことが難しい場合も多いと思う。しかし、これは障害者だけでなく、多くの利用者にとって有益なことなので、ぜひやっていただきたい。
下肢障害の場合
下肢障害の場合は、おそらく店舗へのアクセスというのが一番大きな障壁になるだろう。下肢障害の場合、杖や松葉杖を使う人、車いすを使う人などが考えられる。いずれのケースでも、自分で車を運転できる人とそうでない人がいる。車を運転できる人の場合は、車から店舗へのアクセスが容易でなければならないし、そうでない人にとっては自宅に近かったり、公共交通機関によるアクセスが容易で、かつその道筋の全てが彼らにとって移動しやすいものになっていなければならない。つまり、仮に駅から近くても、その駅にエレベーターがなければ使えない人が出てきてしまうのだ。また、店舗内についても、十分に移動しやすいものになっていなければならない。このように考えると、少なくとも以下のような取り組みが必要だろう:
- 店舗のバリアフリー化
- 店舗へのアクセス手段の確保
車を使えるユーザにはドライブスルーのような仕組みも有効だろう。また、薬剤師が顧客の家に出向いて販売することだってできるだろう。 (これは法的に何らかの規制があったりするのかもしれないが。)
誰にとっても安全な対面販売を
ここまでに書いたことをできれば完璧、とはとてもならないと思う。しかし、こういう取り組みが実施されれば、それほど不便にはならないかもしれないという気も少しだけする。いずれにしても、ネット販売を規制することによって自信の健康や安全を奪われる人が出ないようにすることが必要なのだから、医療関係者である彼らにはこんな浅知恵だけでなく、もっとしっかりと考えた上で業界内の指針を作り、それに則ったサービス提供を期待したい。何と言っても「対面の方が安全」だと言い切っているのだから、少なくともこの程度のことをやる覚悟はあるのだと思いたい。それができないのであれば、こういうことを補ってきたネット販売を安易に規制するようなことはしない、我々の安全を担う彼らなら、それくらいの心構えがあって当然だ。
ところで、既報の通りケンコーコムなど2社がこの件に関して行政訴訟を提起したそうだ。今後の成り行きに注目したい。