オンライン医薬品販売訴訟控訴審判決

投稿: 2012年4月27日

過去にこのブログでも書いたことがある、医薬品のネット販売に関する規制について、嬉しいニュース。

INTERNET Watch - 医薬品ネット販売裁判の控訴審、ケンコーコムなどに販売権認める逆転判決

 改正薬事法の施行に伴い、第1類および第2類一般医薬品のネット販売を禁止した厚生労働省の省令は違法だとして、ケンコーコム株式会社と有限会社ウェルネットの2社が販売権の確認などを求めていた裁判の控訴審で、東京高等裁判所は26日、2社の販売権を認める逆転判決を言い渡した。

以前も書いたように、この件は僕にとっては生活に直接影響を与える大きな問題なので、この裁判についてもずっと注目していた。そんなことをTwitterやFacebookでもここ数日間書いていたら、判決が出た直後に親切な友人がTwitterで原告勝訴の一報をくれた。それを読んだ直後から、声を上げたいほど嬉しかったのだけど、そこまでの喜びを共有できる人が周囲にはいなかったので、一人にやにやしながら静かに喜んでいた。

確かに多くの人にとってこの問題は、僕の場合とは違って生活に直接的な大きな影響があるものではないのだろう。「ネットで買えれば便利だけど、買えなくてもそれほど困らない」というのがほとんどの人の考えではないだろうか。だからこの判決にもそれほど喜びを感じないというのは、特に意外なことでもない。

ただ、そんな人たちにもちょっと考えてみて欲しいことがある。それは、誰しも今単純に「あれば便利」とだけ思っているもの、サービス、仕組みなんかが「ないと困る」という状況に陥る可能性が充分にあるということだ。それは、転職や引っ越しなどによる生活環境の変化かも知れないし、病気や怪我で一時的にこれまでと同じような生活ができなくなるような状況かも知れないし、あるいは事故や病気で障害者になるということかも知れない。僕も含めて多くの人は、そういう自分にとって不都合なことが起こる可能性をあまり考えないと思う。だから今自分に直接関係がないサービス、福祉制度、社会の仕組みなんかを自分とは全く関係のないこととしてしかとらえない、そんなことになっているのではないかという気がする。社会全体を良くしていくためにも、もう少し想像力を働かせた方が良いのではないだろうかとしばしば感じるのだ。

話がそれたが、とにかくこのような判決が出たことは少なくとも僕にとっては大変喜ばしいことだ。とは言っても、被告である国が上告する可能性も残っているし、ネット販売に反対する人々もいるので、これでこの話が集結するかどうかは分からない。

2009年にこの規制が始まった当時 (というか、それまでの議論の中で) この規制に賛成していたのは主にオフラインの (実店舗がある) 薬局などの業界団体と、薬害被害をなくす取り組みをする人々だったと認識している。前者については単純にオンライン販売によって利益が減ることを危惧しているだけのように思える。実際には店舗での対面販売の方が安全という主張をしているが、本気でそう思っているのだとしたら業界団体として既存薬局に対する指導を徹底してから言って欲しいと思えるような状況であることは、上でリンクした過去の記事を読んでいただければお分かりになると思う。

では薬害に関する取り組みをしている人々の言い分はどんなものなのだろうかと思って、改めて調べてみた。すると「一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-」提出 | 薬害オンブズパースン会議 Medwatcher Japanというページが見つかった。ここに掲載されているPDFの意見書を読んでみた。

ほとんどが手続き的な不備というか問題を指摘する内容だという印象だが、本質的な内容と思われる点を以下に何カ所か引用し、僕の意見を記したい。

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-

2一般用医薬品のインターネット販売の原則禁止の必要性

[略] 「改正薬事法」の基本的理念は、専門家による実効性のある情報提供と相談対応によって、一般用医薬品の適切で安全な使用を実現しようとする点にあります。

この理念は、本当にそれが守られた運用が行われるならすばらしいことだろう。そうであるなら、オンラインがオフラインより危険だという論が成り立たないとは言い切れなくなる。しかし現実は、ここ3年間で何度か薬局で風邪薬を買った際の店員 (薬剤師) の対応は、3年より前のそれと何ら変わらない、すなわち副作用に関する説明は一切しない、用法用量もこちらから尋ねなければ説明しないといったものだった。この基本理念を重視するなら、そういう薬局はさっさと廃業させないと危険過ぎるのではないだろうか? もっともそれで全国にいったい何件の薬局が残るのか知らないけど。

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-

2004年から2007年に医薬品副作用救済制度による給付が行われた2743件のうち、原因薬剤に一般用医薬品を含むものは139件(5%)あり、一般用医薬品による健康被害の内訳をみると、スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症など重篤な副作用被害が最も多く、少なくとも7人が死亡していると報告されています。そして、原因薬剤の半数以上は、第2類の総合感冒薬です。副作用被害救済制度の申請率の低さに鑑みれば、実際には一般用医薬品によって、より多くの副作用被害が発生していると考えられます。

これは客観的事実として重要だと思う。そしてこの被害者数、特に死亡者数を0にしなければならないということは言うまでもない。しかし、この事実の指摘の中に、これらの被害発生がオンラインの店舗での購入の結果のものなのか、オフラインの店舗での購入の結果のものなのかは一切言及されていない。もしオンライン店舗での購入の結果の被害が割合として多いのならば、オンラインがオフラインよりも危険だということになるだろうが、ここで言っているのは第2類の医薬品が危険であるということだけだ。

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-

一般用医薬品の安全な使用を確保するためには、対面販売が不可欠であり、対 面販売を実現できないインターネット販売を禁止した省令は極めて適切です。

ということで、少なくとも上に挙げられている事実から「対面の方が安全」ということにはならず、また上述の通り、対面販売で買っても適切な情報提供がされていない事実については全く考慮していないので、この主張は理解に苦しむものだ。

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-

規制に反対するインターネット販売業者等は、高齢者や障がい者、離島居住者などの利便性が損なわれると主張していますが、むしろ、これらの方々に対してこそ、専門家の指導による適切な医薬品の使用が強く求められます。消費者が求める利便性は、あくまで安全を前提にしたものなのです。

繰り返し言うけど、対面販売で「専門家の指導」とやらをいただいたことなど全然ない。リンクした以前の記事にも書いたように、オフライン店舗の薬剤師が提供してくれる情報は、オンライン店舗の商品説明ページにある情報には遠く及ばない少なさだ。それのどこが「専門家の指導」だと言うのだろうか。また、この障害者や高齢者、さらには離島居住者の理解力を疑うような姿勢にも納得できないものを感じる。

一般用医薬品のインターネット販売に関する意見書 -安全性を無視した規制緩和に反対する-

今、求められているのは、対面販売の原則を堅持して、店頭販売を含め、専門家による実効性のある情報提供と相談対応を徹底して、改正薬事法の理念である一般用医薬品の適切で安全な使用を実現することであり、インターネット販売を解禁したり、規制を緩めたりすることではありません。 私たちは、一般用医薬品のインターネット販売規制の継続を求めます。

ではまずは対面販売に対する規制強化をしっかりと求められてはどうだろうか。

上述の通り、僕も薬害はなくならないといけないと思う。そのために必要な規制もするべきだろう。しかし、オンラインの方がオフラインよりも危険だという主張を、論拠を提示するでもなく、対面販売の現実も無視して転回するこの内容はとうてい納得できないものだ。また、以前も書いたように、少なくとも僕にとっては現状のオフライン店舗よりもオンライン店舗の方が安全に薬を服用できるという事実もある。オンライン販売を規制することで、少なくとも僕の、そして僕と同じような状況に置かれた人々の安全性は損なわれることになり、薬害とは違っても何らかの被害を受ける可能性は高まってしまう。そういう状況も考えずに規制しようというのはやはりおかしなことだろう。

ともあれ、引き続き今後の成り行きに、期待を持って注目していきたい。