ブレイルメモスマートを当初いらないと思った理由と、今いけてると思う理由

投稿: 2020年6月22日

KGSがブレイルメモスマート (以下BMS) シリーズの最初の製品を発売したのは、たぶん2013年とかそれくらいだったと思う。 発売当初、正直なところ僕はBMSシリーズの製品にほとんど魅力を感じなかった。 あれから7年、いろいろな事情と興味が重なって、ブレイルメモスマート Air16を買ってみたのだけど、ちょっと使ってみて僕の中でのBMSシリーズに対する評価は大きく変わった。

なぜ当初魅力を感じなかったのか

BMSシリーズの最初の製品が出た時、僕はブレイルメモポケット (以下BMPK) を使っていた。 一言で言ってしまえば、BMSシリーズ製品はBMPKほど便利には使えなさそうな気がしたのだ。 なぜか。

点字の読み書きができれば充分

BMSやBMPKのようないわゆる点字PDAと呼ばれる類の製品は、扱えるデータの形式で大きく2種類に分類することができる。

1つは、単に点字データだけを扱える製品で、BMPKはこれに当たる。 モー1つは、墨字のデータ、すなわちテキスト・データを扱えるもので、BMSはこれに当たる。

僕はもともと、点字PDAには点字の読み書き以外のことを求めてこなかったので、BMSに搭載されている墨字を扱うための機能が余計なもののように感じられた。

ネットワーク機能の欠如

また、当時すでに墨字を扱える点字PDAとしては、ブレイルセンス・シリーズがあり、BMSは機能面で大きく見劣りしているように感じられた。

特に気になった点は、ブレイルセンス・シリーズにはWi-Fiが搭載されていて、他の機器とのファイルのやりとりも容易だし、搭載されているWebブラウザーでインターネット上のコンテンツの利用もできたのに対して、BMSはBlueToothで接続した機器とファイルをやりとりするくらいしかできなかった。

ハードウェアの経常は、BMSの方がコンパクトで好印象だったものの、機能面でどうしても魅力を感じられなかったのだ。

BMスマートターミナルの登場で状況は一変

ところが、である。 昨年 (2019年) になって、KGSがBMスマートターミナル」というAndroidアプリケーションをリリースして、BMSシリーズ製品の性質が大きく変わった。

このアプリについて簡潔かつ正確に説明するのは難しいので、詳しくはKGSがサイトに出している情報を見ていただきたいが、以下に簡単に説明を試みてみる。

まず基本的なことだが、このアプリは、Android端末にインストールして、その端末とBMSシリーズの製品をBlueToothで接続して使うものだ。

アプリには2つのモードがある。

1つは、このアプリが提供する機能を使うモードで、電話をかけるとか、SMSを送るとか、そういう比較的よく使われる機能を実行することができる。

もう1つは、「アクセスビュー」というモードで、Androidのスクリーン・リーダーであるTalkBackの音声を点訳してBMSに出力してくれると同時に、BMS上のキー操作でTalkBackの操作もできるようになる。

そして、Androidに明るい知人からは、このアクセスビューについて、大変良い評判が聞えてくるようになった。 これはぜひとも試してみたい。 そう思うようになった。

そんな折、BMS Air16の発売が発表された。 これまでのBMSよりハードウェアが改善されているというし、たしか3年くらい前にBMPKが不調になって以来、携帯できる点字PDAが手元にない状態が続いていたこともあって、購入を決意した。

1カ月使ってみた感想

3がつの中ごろに予約注文したのだけど、どうも人気があるようで、結局納品されたのは5がつの下旬になってからだった。 そんなわけでおよそ1カ月使ってみた感想を記しておく。

アクセスビュー

まずは一番の関心事のアクセスビューについて。 一言で言うと、大変良くできている、という印象。

試すまでは、TalkBackがしゃべった内容が点字表示されるだけ (これだけでも充分便利だが) だけくらいに思っていたが、スクリーンに触れなくてもさまざまな操作をBMSからできるように工夫されている。 もちろん、場合に応じてタッチ・スクリーンも併用して使うのが便利だが、ちょっとした操作だったらBMSだけで完結することができるくらいには便利にできている。

また、アクセスビューを使っていると、Android上のアプリに対する入力をBMSから行うことができる。 短いフレーズならともかく、少し長めのメッセージなどを書く場合は、スクリーン上に表示されるキーボードを使うよりもかなり高速かつ正確な入力ができる。

Android端末とのデータのやりとり

アクセスビューにおいて、Android端末とBMS双方のクリップボードの中身を転送する機能がある。 これを使うと、たとえばAndroid端末上で開いたGoogle Docsの中身を全選択してクリップボードにコピーしてから、これをBMSのクリップボードに転送して、それをBMS上のテキスト・エディターで貼り付ける、というようなことができる。

当然、その逆に、BMS上で作ったテキストをクリップボード経由でAndroid端末上のアプリに貼り付けることもできる。 そしてこの時、貼り付けた先がDropboxのようなアプリであれば、PCとのデータ共有も簡単にできることになる。

さらに、アクセスビューではない方のモードには、Android端末内のファイル一覧をかくにんし、必要なファイルをBMSに転送する機能もある。 この機能を使うと、KGSのサイトでも紹介されているようにChromeでサピエからダウンロードしたデータをBMSにコピーして読む、なんてこともできてしまう。

残念ながら、今のところBMSのファイルをAndroid側に転送する機能は見つけられていないが、これができるようになればさらに便利になるだろう。

使いやすい6点入力

BMPKのキーはお世辞にも使いやすいとは言えない感じのものだったが、BMS Air16のキーは非常に入力しやすく感じる。 実際に6点入力で点字を書いてみると、ご入力はほとんど発生せず、同時打鍵の検知にもほとんど問題がない印象だ。

こうなると墨字文書作成にも便利

入力はしやすいし、データの共有もできるし、これならば墨字文書 (テキスト・データ) を作るのにも充分使える気がしている。 というか、実際この文章、そして前回の記事はBMS Air16で書いたものをPC上で一部手直ししたものだ。

さらに、実はPCの入力手段としても良いのではないかという気もしてきている。 こちらについては、まだ実践投入していないが、少し試した感じではかなり良さそうな気がしている。 もしBMS40を手に入れられれば、点字ディスプレイとして使いつつ、入力もするのに使うという使い方をしてみたいと感じる。

けんめいなアプローチ

実際に使ってみて感じたことだけど、BMSのアプローチは以下の点で賢明だと思う。

  • 通信機能と最新サービスなどへの対応はAndroid端末に完全に任せてしまっていることで、BMS側ではコア機能に注力できる。
  • 新しいバージョンのAndroidを使いたくなっても、BMSの買い替えは不要で、スマホだけ買い替えれば良い。点字ディスプレイ搭載機器は、一般に買い替えまでの機関が長いので、これはかなり大きなメリットだと感じる。

KGSのサイトを見ると、BMスマートターミナルは結構な頻度で更新されているようだし、今後にも期待できるのではないかという気がしている。