ITスキルが高い視覚障害者の特徴

投稿: 2020年11月10日

最近、何人かの全盲のスクリーン・リーダーのユーザーにPC関連のサポートをした。その中で感じたことがある。

これは20年くらい前から折に触れて考えてることなんだけど、IT関連のスキルが高い視覚障害者、というかスクリーン・リーダー・ユーザーの大きな特徴は、とにかく「よく聴く」ということだ。

そもそもITスキルが高いとは?

まず僕が考える「高いITスキル」とはなにか。

もちろんいろいろな段階があるのだけど、最終的には

初めてアクセスするWebサイトや初めて使うアプリケーションを、独力で使える、または使えないという的確な判断ができる。

ということなのだという気がしている。

多くのスクリーン・リーダーのユーザーは、まずは決まったタスクを確実に実行できるようになるところから始めるはずだ。 例えば、メールの受信は、このキー操作でアプリケーションを起動して、特定の音声が聞こえるまでTabキーを押してから特定のキー操作、みたいなことを、タスクごとに覚えていくということだ。

これをどうにかできないと、PCなりスマホなりを使う意味がないので、今ユーザーである人たちは、みんなここには到達していることになる。

せっかく習得したタスクも、アプリケーションやWebサイトの更新などといった理由で今までの手順では実行できなくなってしまうことがある。 こういう変化に独力で対応できるかどうかというのが、次の段階だろう。

もちろん詳しい人に聞いて今までのやり方を修正する、ということができる人は多い。 そこを独力でやる、つまり自分がその「詳しい人」になるというのがこの段階だ。

ここまでくれば、あとは対応できる変化がどれだけ大きいかで、上に記した最終形になるかどうかだ。 破壊的変化にも対応できれば、それはもう新しいものに自分で対応できるのとほぼ同じこどとだと言って良いだろう。

どうやったらスキルが上がるのか

上述したスキルのレベル、つまり

  1. タスクを実行できる手順が身についている
  2. 変化に応じて自分で手順を修正できる
  3. 新しいものに対応できる

これについて、少し詳しく考えてみよう。

1の部分は誰かに教えてもらうか、何らかの教材に頼ってどうにかするというのが一般的なのだと思われる。 ここは記憶力と反復練習で乗り切ることができる。

身につけた手順について、その意味を理解しているかどうかというのが、ここから2に行けるかどうかの差だと思う。

例えば
「Tabキーを3回押してEnterを押せば新規メールの作成を始められる」
という覚え方をしている場合、ボタンの数が変わってしまうととたんにやりたいことができなくなってしまう。

この覚え方にも利点はある。 何も考えずに決まった操作をすれば良いから、とにかく早いのだ。

一方、同じ操作について
「Tabキーを何回か押して『新規作成』という音声が聞こえたらEnterを押す」
という覚え方をしている場合、少々ボタンの数が増減しても何ともない。 「新規作成」というラベルが全く別のものに変わってしまわない限り、問題なく対応できるだろう。

このとき、音声にしっかり耳を傾ける人だと、「新規作成」にたどり着くまでに他にどんなボタンがあるのかというのを無意識のうちに知ることになる。 結果として変化に気づきやすいし、自分にとって未知の機能を見つけたりなんてことも容易にできる。

さらに、例えば「新規作成(Ctrl+N)」などとショートカット・キーも読み上げられていることに気づいたりもする。 そうすると、次からはTabキーを何度か押すのではなくて、Ctrl+Nを押してみよう、となる。

こうなると操作も早いし、ボタンの数の増減には全く影響を受けなくなる。 下手をすると少々の変化には気づかない、なんてことも起こる。 でも普通はタスクを実行できてさえいれば、変化があろうがなかろうが関係はないので問題ない。

そしてここから3に行けるかどうかは、経験知がどれだけ多いかということに尽きるのだと思う。

経験知を増やすことのできる条件としては、以下のようなことがありそうだ:

  • 音声をよく聴く
  • 好奇心が強い
  • ドキュメントをちゃんと読む

この中でも「音声をよく聴く」というのが、僕は一番重要だと思っている。 自分が今この瞬間に必要としていない情報も耳に入れる、という姿勢につながるからだ。

ではなぜそういう姿勢が重要なのか。 具体的には、上で挙げたように変化に気づくことや教えてもらえなかったショートカットキーに気づくことにつながるからだ。

画面を普通にみることができるユーザーの場合、画面全体をぱっと見て自分が必要としている機能を探すだろう。 この時、目的とは関係のない機能や情報も眼に入る。

ところが、画面を見ずに単に決まった手順を実行しているだけの視覚障害者の場合にはそういうことは起こらない。 音声がなにか言っていようとお構いなしに決まった回数Tabキーを連打するような使い方ではなおさらだ。

目的のタスクの実行のついでに、どれだけ余分な情報を得られるか。 これが応用力につながるのではないかという気がしている。

読み上げ速度との関係

と、個々までが話の本質だ。 ただ、もう1つ考えている仮説がある。

それは、スキルが高いユーザーは読み上げ速度をかなり高速に設定しているのではないかということだ。

上述のように、僕はいかに余分な情報を拾っているかがスキルにつながると考えている。 もし読み上げ速度が遅いと、要らない情報を聴いている時間がもったいないし、実際じれったく感じるはずだ。 だから要らない情報を得るという動作は、いわば能動的なものになる。

一方、読み上げ速度が充分に速ければ、要らない情報は飛ばそうと考える前に要らない情報の読み上げが終わっているから、結果としてそういう情報が自然に耳に入ってくる。 つまり受動的な動作になる。

言うまでもなく、能動的な動作は意識して行わないといけない。 でもそんなことをしていたら、目的のタスクを実行するのに効率が悪い。

受動的な動作は、勝手に情報が入ってきてくれるから、手間がかからない。 そして充分に高速だから効率にも影響が出にくい。

もちろん、高速なら必ずスキルが高い、低速なら必ずスキルが低い、などということではない。
単に確率の問題として、高速の方が余分な情報が耳に入る可能性が高くなって、結果としてスキルの向上につながりやすいのではないかということだ。

まとめ

まとめると、
とにかく音声にしっかり耳を傾けることが、ITスキル向上の第一歩なのではないか
ということだ。

ちなみに僕は、スクリーン・リーダーを使い慣れた視覚障害者の中でも比較的高速な読み上げ設定をしている方だと思う。 以下に貼った動画は、この記事を普段僕が使っている速度で読み上げさせている様子だ。

結構効率が良いのだけど、一瞬ぼーっとしただけで聞き漏らす内容が多くなるので、集中力がない時にはむしろ逆効果だというデータ(当社比)もございます。

※この記事はNoteにも掲載しています。